2020/11/26
感染症の流行拡大につながりうる「インフォデミック」とは(前編)では、インフォデミックにつながる恐れのある、社会に拡散されたミスインフォメーションに対して、WHOがIT企業やSNSプラットフォームなどと連携してどのような対策を講じてきたかについて紹介しました。今回は、ミスインフォメーションの蔓延やインフォデミックに対する、予防的な取り組みについて紹介します。

オンラインでのソーシャルリスニング
WHOはデータ分析会社と連携して、国際組織としては初めて「ソーシャルリスニング(SNS上の声を分析し、対策などに生かす手法)」のアプローチを取り入れ、公衆衛生に関連するメッセージの伝達方法の改善に取り組んでいます。データ分析会社は毎週、様々なソーシャルメディア上の160万件以上の情報を精査し、機械学習を用いて検索を実行、そこで得た情報を「原因」「症状」「対策」「治療」の4つのトピックに分類しています。これにより、WHOはその時々で注目が集まりつつある公衆衛生関連のトピックを追跡し、健康に関連したメッセージを効果的なタイミングで発信することが可能となります。 機械学習は、SNSユーザーが投稿時に持っている感情についても分析します。ポジティブ、中立、ネガティブといった単純なものではなく、投稿の中で表現されている「不安」「悲しみ」「否定」「受容」などの感情に光を当てています。こうした感情を把握することにより、WHOは効果的かつ積極的なコミュニケーション戦略を立てることができます。例えば、ミスインフォメーションが流行してしまう前に人々の心配事に働きかけ、その不安を落ち着かせることが可能になります。
ウガンダ:ラジオの情報を解析するツールを活用
ミスインフォメーションに晒される危険にあるのは、インターネットにアクセスできる人だけに限りません。WHOは国連グローバルパルスというイニシアチブと協働して、こうしたインターネットにアクセスできない人々をミスインフォメーションから守るための取り組みをしています。

ウガンダでは、半数以上の世帯はラジオでニュースを聞いています。また何千人もの人が毎日、地元のラジオ番組に電話をかけて、日常のささいなことから健康問題のような深刻なトピックまで、あらゆるテーマについて話しています。国連グローバルパルスのカンパラ支部は、AIを搭載した自動会話認識ツールを使って、録音したラジオの会話を地元の方言から英語のテキストに変換、ここから新型コロナウイルス関連用語を洗い出し、さらにその中で、地元コミュニティで流布しているミスインフォメーションがあるかどうかを洗い出しています。 このツールにより、地元コミュニティで魔術や薬草が感染症の治療法として広まっていること、またウガンダで精製されたワクチンがあるという噂まで流れていることがわかりました。こうしたデータは、WHOが自分たちのメッセージをどのように伝えていくかを考える上で非常に重要になります。WHOは他の国連機関とも協働して、サハラ以南のアフリカと南アジアの計4カ国でこのプロジェクトを新たに展開できるよう準備しています。
コミュニティの中の人々と共同作成したガイダンスを拡散
新型コロナウイルス感染症のような重大な危機の場合、各国の厚生省と協働してメッセージを広めるというトップダウンの戦略だけでなく、すべてのコミュニティにメッセージが行き渡るように社会全体を巻き込んだアプローチが必須となります。そのためWHOは若者、ジャーナリスト、信教に基づく団体など多様なグループと協力して、それぞれのコミュニティに合う形で情報を届けられるように、共同でガイダンスを作成しています。これらのグループが、地域の人々に正確な情報を拡散するための「増幅器」としての役割を果たすのです。 例えば手洗いは非常に重要で、手洗いの時間から方法まで国際的な推奨がありますが、実際は、推奨通りに手洗いをするのが不可能な地域もあります。その地域に住むコミュニティリーダーの力を借りることで、手洗いのために十分な水や石鹸がない地域や、ソーシャルディスタンスが難しい地域に住む人々にも、衛生にまつわるガイダンスをカスタマイズして届けることができます。WHOとコミュニティリーダーにより作られた改訂版のガイダンスには、身体的接触を伴う挨拶をアイコンタクトやお辞儀に変えるアイデア、浄めの儀式を礼拝所ではなく自宅で行う方法、さらには感染症による制限に従いながら、愛する人の埋葬をどのように行うかなどに渡るまで、様々なアドバイスや情報が含まれています。
連帯基金による資金提供
WHO、ユネスコ、国際電気通信連合、国連グローバルパルスで結成されたインフォデミックに対応するための新しい国連アライアンスは、本基金から約450万ドルの資金提供を受けました。これにより、コミュニティに根差した活動およびソーシャルリスニングを使った情報収集の規模拡大や、ファクトチェックとミスインフォメーション関連の情報を統合して扱う専門センターの創設などが可能となり、インフォデミックに対応するためのツールを各国に提供することが可能になります。また6月29日に開催された世界初となるインフォデミックに関する会議には、多様なバックグラウンドを持った科学者たちが集い、科学的根拠のある方法で、この問題への取り組みと状況改善を目指すことについて話し合いました。 前代未聞のインフォデミックと闘うためには、これまでにはない新しいアイデアとアクションが必要となります。WHOはテドロス事務総長のリーダーシップのもと積極的にイノベーションを行い、IT企業やデータ分析会社、地域のコミュニティリーダーたちと密に連携しながら、この問題に取り組んでいます。
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